40代女性 孤独死の特殊清掃~大人のひきこもり「8050問題」がもたらした結末

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生活感が色濃く残る室内、大量に残された感謝の手紙やメモ。

 

大阪のとある集合住宅の一室で、40代の女性が孤独死されました。20年以上も引きこもり、80代の母と二人暮らしをしていた故人。母の死から約1年後、後を追うかのようにこの世を去りました。

 

ご依頼主である義姉の方は、義妹の孤独死を「防ぎたくても防げなかった」と吐露します。なぜ、誰も助けられなかったのか。その背景には、日本が抱える社会問題「8050問題」がありました。

 

大人のひきこもり「8050問題」とは

「8050(ハチマル・ゴーマル)問題」とは、中高年の引きこもり問題を指す言葉です。厚生労働省の用語集では、「80代の親が50代の子どもの生活を支えるために経済的にも精神的にも強い負担を請け負うという社会問題のこと」と定義されています。

 

2010年代以降、引きこもりは若者に限定される問題ではなくなりました。内閣府が実施した「生活状況に関する調査(平成30年度)」によると、半年以上家から出ずに暮らしている40歳~64歳は、全国に61.3万人いると推計されています。

 

引きこもりの原因として報告されているのは、家族や本人の病気、親の介護、離職・リストラ、経済的困窮、人間関係の孤立などです。

 

このような中高年の引きこもりを支えているのは、ほとんどの場合が高齢の親。そのため経済的にひっ迫しやすく、さまざまな理由で外部への相談も難しいとされています。親子で地域社会から孤立した結果、悲惨な状況に陥ってしまうケースが年々増加しているのです。

 

関西クリーンサービスは遺品整理・ゴミ屋敷清掃・特殊清掃などのサービスを提供しているため、現場で8050問題を目の当たりにすることも少なくありません。

 

引きこもりの長期高齢化、その果てで起きてしまった「孤独死」

8050問題では、若者の引きこもりが長期化した結果、本人や家族が高齢となり、孤独死するケースも多く見られます。今回私たちが訪れたのも、そのような状況にあったご家庭でした。

 

現場は大阪の集合住宅。ご依頼主さまは故人の義姉にあたる方です。義理の妹が孤独死したため、遺品整理と特殊清掃をお願いしたいとのご依頼でした。

 

義妹(以下、娘さんと表記)は享年40代。10代後半から引きこもりがちになり、定職に就くこともなく生活保護で生計を立てていたそうです。両親と三人暮らしでしたが、父親が他界してからは80代の母と生活していました。

 

しかし、その母も高齢による老衰で死去。ひとりになってしまった娘さんは、家族の後を追うように、40代の若さで亡くなられました。

 

発見されたのは死後約3週間経ってからでした。ベッドの上で亡くなっており、発見直後の現場には腐敗臭や体液が残っていたといいます。

 

40代ひきこもり女性の孤独死。家の中の様子

コロナ禍の2021年4月某日、ご依頼を受けて弊社スタッフが現場へ伺いました。

現場の間取り図
(現場の間取り図)

 

部屋の中は生活用品が乱雑に散らばっており、あちこちに缶チューハイの空き缶が置いたままになっていました。

 

娘さんはお酒好きでしたが、持病によりドクターストップがかかっていたそうです。しかし心のよりどころだった母の死後、飲酒を再開。昼夜逆転の生活を送り、お酒の量も増えていったそうです。

空き缶のごみ

小さなちゃぶ台の上には、たばこの吸殻が詰まった灰皿が。お酒や煙草といった嗜好品で、孤独から逃れようとしていたのかもしれません。

卓上の数年前に亡くなった愛犬と思われる写真
(卓上にあったのは、数年前に亡くなった愛犬と思われる写真)

 

今もここで生活されているかのように、生前の痕跡が部屋全体にあふれていました。一方で、ホコリが厚く積もり、長い間手入れされた様子のない箇所も。

ホコリの積もった鏡台
(ホコリの積もった鏡台)

 

娘さんひとりが取り残された家の中は、「閉ざされた空間」となっていました。

 

亡くなられた現場の状況

ご遺体の発見が遅れた場合、遺体の腐敗により臭いや害虫が発生することがあります。今回の現場は、臭いは強くなく、害虫も一見すると見当たりませんでした。

廊下にハエの死骸

しかし廊下の窓際には、ハエの死骸が点在していました。発見当時には飛び交っていたのかもしれません。

亡くなられたベッド

お亡くなりになった場所は、家のいちばん奥にある寝室です。ベッド上の布団やマットレスには、体液が染みついていました。

 

床には一組の布団が敷かれたままになっており、お母さまが使われていたものだと思われます。

 

特殊清掃開始。故人に祈りを捧げ、部屋の消毒を行う

現場の状況を確認したのち、異臭と汚れを取り除く特殊清掃に入ります。今回は作業員5人で行いました。

まずは玄関先にてお線香を供えて合掌し、故人の冥福をお祈りします。

 

孤独死の現場ではウイルスに二次感染する恐れがあるため、防護服が必須です。足元までしっかりカバーし、清掃を始めます。

防護服を着るスタッフ

はじめに、ウイルスや腐敗臭を除去するため、部屋全体に消毒剤を散布していきます。

 

作業当時は新型コロナウイルスが猛威をふるっていた時期であり、感染による死亡の可能性も懸念されていました。そのため、片付け前にしっかりと除菌を施してから、作業を開始させていただきました。

除菌作業

除菌後、遺品の片付けをしていきます。

 

ご依頼主さまも室内を一切触っていないとのことで、遺留品の確認しながら整理させていただきました。

たんすや引き出しの中などを開けていくと、気になるものが出てきました。

 

遺品整理中に出てきた、母娘の関係を表すメモ

手紙やメモ

引き出しやポーチの中に保管されていたのは、大量のメモ。

母への手紙

「おかあさんへ おはよう。途中で寝て起こしたけども、ここで寝るっていうことやったし。〇〇(娘さんの名前)はすこしさみしかった。けど、ねます」(娘)

 

「久しぶりにやきめし作りました。よければどうぞ♪」(娘)

 

「おいしかった ありがとうさん」(母)

 

メモには日常的な母との会話が記されていました。手紙でのコミュニケーションを大切にしていたのでしょうか。感謝や愛情表現のやり取りがあったことが伺え、お互いを気遣い支え合う、仲の良い親子の姿が浮かびます。

おかあさんありがとう

しかし、メモの内容は明るいものだけではありませんでした。

誓約書

「もう死ぬって言いません。過去の事も一斉言いません。お母さんを傷つける事をしないように考えて言動します」

 

「誓約書」と題された一枚には、閉鎖的な環境での親子関係や、娘さんの心の葛藤が垣間見えます。このような内容の誓約書を書かなければならない状況にあったのでしょう。引きこもり当事者と家族の間には、現状と将来に対する不安が常につきまとっているのです。

 

遺品整理後、体液の染みついたベッドを撤去

布団の梱包

寝室の遺品整理が完了したあと、残った寝具の搬出を行いました。

臭い漏れとウイルス感染予防のため、体液の付いた布団やマットレスを厳重に梱包していきます。

マットレスの梱包

袋に入らないマットレスは、ポリエチレン製のストレッチフィルムに包んで運び出します。ストレッチフィルムには伸縮性があり、静電気や摩擦力によって接着する特性を持っています。重ねて巻くことで強度を持たせられるので、大きな荷物の密閉梱包に適しているのです。

 

お仏壇の扱いにも困っておられたため、丁寧に運び出し、合同供養という形で引き取らせていただきました。

お仏壇の処分

家具や家電、畳の上に敷かれたフローリングマットなどを完全に撤去したあとは、消臭剤を撒いていきます。

作業後の消臭

仕上げにオゾン脱臭機を使い、清掃の過程で残った臭いやウイルスを完全に除去します。約7時間かけて、清掃が完了しました。

 

 

親族だからこそ難しい、引きこもり家庭の支援

娘さんは学生時代から登校拒否などの問題を抱え、次第に社会とのつながりを失って引きこもるようになったそうです。ご依頼主さまにお話を伺ったところ、引きこもり問題の難しさが浮き彫りになりました。

話を聞くスタッフとご依頼主様

「義妹はずっと引きこもりだったけど、お義母さんは優しい人だったので、『無理しなくていいよ』という感じでした。自分の子どもですしね。義妹とはたまに連絡を取っていたから、彼女や義実家の状況はわかっていました。けど、彼女も大人だし、私が金銭面や生活を支援すると、それに甘えて社会復帰がさらに難しくなると思っていたんです」

 

妹さんの兄であるご主人は、実家の様子などを進んで話そうとしなかったそうです。家族の状況を隠したがるのは、引きこもりの家族・親族によくあるケースです。引きこもりの長期化を加速させる要因のひとつになっていると、弊社は考えています。

作業後の部屋
(清掃作業が完了した寝室)

 

ご依頼主さまが「(孤独死を)防ごうにも防げなかった」というニュアンスで話されていたのが、とても印象的でした。そこに8050問題の難しさと悲惨さがあると痛感しています。

 

引きこもりの期間が長くなると、それが原因でさらに引きこもるようになり、自立を願うがゆえに家族も安易に手を差し伸べることができなくなるのです。

 

決して特殊ではない、8050問題――私たちが伝えたいこと

引きこもりの高齢化により、家庭の社会的孤立を生み出す8050問題。どこか他人事だと感じる方もいるかもしれません。しかし、引きこもりがいる家庭は特別なものではなく、どこにでもいる普通の人間、家族なのです。

 

日頃から凄惨な孤独死の現場を見ている弊社では、8050問題の深刻化に強い危機感を持っています。8050問題が、閉鎖された環境で悪化していくものである以上、どこかで外部からサポートするタイミングがなければなりません。

 

しかし今回ご紹介したように、親族であるからこそ支援が困難であったり、引きこもりを「身内の恥」として隠してしまったりするケースも多々見られます。

 

実際に弊社が行った「『引きこもり』に関する意識調査」(2021年10月実施/調査人数:1244人/調査対象:全国の家族や親族に引きこもりの方がいる30代~80代の男女)でも、74.6%の方が「自治体や支援団体などに相談に行っていない」と回答されました。

アンケート結果

引きこもり当事者や家族が社会から遠ざかっている期間が長ければ長くなるほど、共倒れや孤独死といった結末を迎えてしまうことも事実です。

 

悲惨な最期を防ぐためにも、「引きこもりに対して恥じる気持ちを持つ必要はなく、悲惨な結末を避けるために早期に周囲や行政に相談してほしい」と伝え続けることは、非常に重要だと弊社では考えています

 

もしご自身の家族・親族で、8050問題に類似した状況が発生している場合は、その端緒を見逃さずに早期に手を差し伸べる行動をしてほしいと思います。

 

特殊清掃の現場では、故人が生きていた証、ご遺族の悲痛な声、物件オーナーの苦悩など、さまざまな思いが表面に現れてきます。特殊清掃の現場の様子を知ることで、離れて暮らす引きこもりの家族、一人暮らしをする家族、友人を気にかけるきっかけになればと願っています。

 

あなたのできる範囲の行動が、孤独死を防ぎ、大切な人の命を救うのです。

地域

京都

作業内容

遺品整理、汚染物の処分、オゾン脱臭、不用品の処分、設備の取り外し、物置撤去

作業人数

5名

作業時間

約7時間

車両

2トントラック 1台
パッカー車 1台

料金

220,000円